Kazuo Ishiguro, Never Let Me Go

そういえば、Kazuo Ishiguro の Never Let Me Go もだいぶまえに読んだんだけど、書いていなかった。Never Let Me Go
 
この小説は、ある種SF的状況を描いていて、それはもちろんこの小説の枠として非常に重要なのだけど、それよりもなによりも、その状況を「ふつう」のこととして体験しつつ育った女性が一人称で語る、その語り口が核だと思う。
 
同じことをいいかえる。外側から見ればその状況は「異常」以外のなにものでもないのだが、その異常さ自体はこの小説のテーマではない。いわば巨大なシャボン玉のなかで育った主人公たちが、そのシャボン玉に内側から近づきさわるようにして、その世界の輪郭をたしかめていく、その女の子がみずからその内面世界を一人称で語る。それを Ishiguro は書ききってしまっているように見える(連れは僕よりもこの小説を先によんだのだが、どうして女の子の心の動きがここまでわかるのかと驚嘆していた)。わずかずつおこる些細な出来事の積み重ね、そうした出来事によって逐一おこる心の微妙な動き、それらが正確にトレースされ、まさに haunting としか形容できない感情が呼びおこされる。この形容詞はこの小説家のためにあるのではないかと思う。
 
しかし、この紹介、好きだわ。
http://d.hatena.ne.jp/shady_lane/20051012#p1