剽窃について(再度)
ブルーバックス2点を回収・絶版への件について。
http://shop.kodansha.jp/bc/books/bluebacks/oshirase.html
朝日新聞の記事で重要なのは以下の部分。
巻末に参考文献として挙げてはいたが、本文中に引用個所の明示がなかった。
「巻末に参考文献として挙げてあるから引用箇所を明示していなくても剽窃ではない」という考えは通用しない、ということである。
ポピュラー・サイエンスの本だからこの基準は緩くてかまわないのではないか、という考えがあるかもしれない。しかし、ポピュラー・サイエンスの本であるからこそ、余計にこの基準は厳守される必要がある。
サイエンス(これに文系学問を加えても)の本質は、手続き的厳密さである。ポピュラー・サイエンスは、科学の知識とそのおもしろさをわかりやすくつたえることだろうけれども、だからといって、基本的手続きをおろそかにしてもよい、ということにはまったくならない。地の文と引用文を区別するのは最低限のルールだ。
それにしても、読売新聞の記事によると、回収・絶版となった一冊である『科学史から消された女性たち』では
盗用が指摘された書籍の著者や訳者の大半が女性研究者だった。
という。この記事ではこれ以上展開していないが、これだけでも以下のことが考えられる。
すなわち、『科学史から消された女性たち』は、そうした女性たちのことを、物語ることにより復活させる意図で書かれたのかもしれない。
しかし、地の文と引用を区別しない剽窃行為によって、そもそもそうした「科学史から消された女性たち」を復権させようとしてきた女性研究者たちを「消してしまう」結果となった、ということだ。
著者が意図的に悪意をもってこうした二重の「女性の消去」をなそうとしたとは考えにくく、単純に、剽窃あるいは盗用について厳密に考えていなかった可能性のほうが強いのではないかと推測する。しかし、結果としてはそういうことになってしまった。
剽窃については、以前、別のエントリー
「剽窃禁止というゲームの射程]」
でも述べたので、そちらも参照されたい。さらに以下も参照。
http://d.hatena.ne.jp/kenjiito/20060309/p1