社会の流動性について(id:flapjack:20040909#p1の続き)

isuzukiさん(id:flapjack:20040909 コメント欄)(URLは埋め込みました。)

Kanryo氏が9月9日のエントリー7月10日のエントリーで給料が低いので公募しても断られるとお書きになっているんですがFlapjack氏はこういった場合 キャリア公務員の給料を引き上げることによって公募を実現することが出来るのなら 国民負担が増えてもある程度止むを得ないとお考えですか?

単純に答えると「はい」ということになります。けど、もちろんそういって済む問題ではないのはそれこそid:kanryoさんのいわれるとおりで(id:kanryo:20040710)、役所内給与体系を相当変えないと難しいんでしょう。
 だから政治任用について各国の状況を調べることもさることながら、役所内給与体系が各国でどうなっているのか、こっちのほうを人事院には是非調べていただきたいです。*1 そうしたら、ひょっとしたら

けど私には公務員の実績なんてものがどんなものなのかいまいち分からない。

といわれるkanryoさんの疑問や

役所の場合、誰がどうやって人材を評価して採用するのか、と思います。

というとおりすがりさん(同コメント欄)の問いに対する、答えではなくても何かおもしろいことがわかるかもしれないと思います。*2 

 あと、同じコメント欄で bewaadさんが脱官僚論を考えるというページをお薦めされていますが、このページで言われていることに僕は少々異を唱えたいです。この方は「日本のキャリア官僚の選抜制度というのは、エリートの選抜制度としては、おそらく世界で一番公平な制度であろう」ということを言われています。以下、抜粋しつつ論旨をとります。

《日本では、このキャリア官僚への道を「誰でも知っている」。》 他方、例えば、イギリスの《「労働者階級」の人たちは、「勉強をして試験を受けたら役人になれる」ということ自体を知らなかったりするのである。》 《これでは、いくら選抜制度自体がオープンで公平であったとしても、階級によって得られる情報量の格差が大きすぎて、貧しい人たちがその試験を受けるところまでたどり着くのは極めて困難だということになる。》 だから(?)《向こう[=日本の官僚たち]は世界一公平な試験をクリアしたのだ、政策くらい作らせてやってもいいでしょう。》

 日本社会が(あまりにはっきりした)階級社会になるべきではないという点に僕はいちおう同意しますが、だからといって、a)一律な試験制度によって官僚を選抜すること(この人がいう「公平さ」))が、b)日本社会の運営に最適な政策の作成を保証することにはならないでしょう。この人がはっきりとそういっているわけではないが、a)b)のどちらが重要かといったらa)のほうが重要だ、あるいはb)などは結局誰も判断しようがないのだからとりあえずa)が達成されていればよいのだと言っているように思えます。しかし僕はいかにその判断が難しかろうと、最終的にはb)のほうが大事だと思います(あと、そういうことが階級社会を肯定することになるとも思わない。)
 一律な試験制度によって人材の粒はそろうでしょうが(その粒が優秀な粒であることは強調しておきます)、しかし、そうすることで、明らかにある特定の分野において深い知識を極めた人々(その一つの目安は博士号保有者であるかどうか)を結果的に失っているとすれば*3、やはりあまり適材適所の配置がなされているとはいえないと思う。
 一律に試験による採用方法があるとしても、個々人の担当する仕事の内容は明確に規定されるべきだと思う(ジョブ・ディスクリプション)。
 その仕事が要求するスキルは、特に上級職になればなるほど、ある意味抽象的になる。けれども、だからこそ、その問題の官職が担当する領域において、今何が一番重要な問題であるか、その問題のためにはどのようなアプローチが考えられるか、いくつかあるアプローチのどれが一番よい方法であるか、といったことについて候補者がどれだけ明確なヴィジョンをもっているかが重要になるのだと思う。それはプレゼンテーションなどを通じて比較可能だろう。選考する人々は専門家ばかりではないだろうがそんなのはどこでも当たり前だし、例えば組織の(相対的)外部からも選考委員を含ませるということは一つの手だろう(僕がそこそこ知っているイギリスの大学の職に関してはそうだ)。そこまでしてmagpieさんのいう「うまく行かなかったときに首を斬れる保証と、責任をとる主体がはっきりしていること」というのが可能になると思う。
 いずれにせよ、語弊があるかもしれないが、一律の試験というのは、そういう難しい判断を避けるための逃げとして働いている側面もあるように思う。

*1:この点では、「官界の流動化は当然、政治任用によって達成されるでしょう」というmagpieの意見(id:kanryo:20040710 コメント欄)には反対です。それだけではまったく十分ではない。

*2:あとそのときには、仕事量と人員の割り振りについても調べていただきたいです。id:tenjinusさんのところ(id:temjinus:20040911#1094828736)に同感。官僚でも会社員でも誰でもそんなに働いてたら、そら家族壊れて不思議じゃないすよ。

*3:塩崎恭久氏「専門的優秀さの傍証である博士号保有者数においては、他の先進国にはるかに遅れている。」「官民の人材「流動化」で霞が関を建て直せ」より(isuzukiさん紹介の記事)。ちなみに、官僚に採用されてあとで官費によって博士号を取得させるという方法もあるだろうが、それには僕はあまり賛成しない。