社会の流動性について−イギリスの官僚の場合−

 id:kanryoさんのところで(id:kanryo:20040907#p2)、人事院年次報告書の平成15年度版が「政治任用特集」であり各国の状況も分かるとのこと。以前社会の流動性について少し書いたけど(id:flapjack:20040702 cf. id:flapjack:20040701)、そのときの話と少し重なるのでざらっと目を通してみる。イギリスのところのまとめを以下引用する。[ ]で囲まれた部分はflapjackによる注です。あと見出し以外の太字強調はflapjackによる。別にイギリスのやり方がベストだというわけではないだろうが、前に議論したときに、僕がイギリスの官僚の人事のありかたについて持っていた印象とも一致するので当時の議論のフォローアップとして。

(10)我が国との背景の違い

イギリスでは政官の役割分担、それぞれの職業規範が明確で、本省機能も企画立案が中心であるなど政治任用者が果たす役割の特定が容易。職業公務員の社会的威信も高い。

(成熟した政官関係)
 イギリスでは、二大政党制による政権交代を前提として、党のマニフェストに基づいた政治主導による政策運営を多数の与党議員が行政府内に入って行い、職業公務員は中立・客観的な立場から、そうした時々の政権の政策運営を支える体制が長年の歴史と慣行により確立されており、政治家と職業公務員が果たす役割及びそれぞれの職業規範が実績と経験に裏打ちされた形で理念的にも実践的にも存在している。一方、我が国では、イギリス同様に議院内閣制をとるものの、政権交代を前提とした政官の関係が確立されておらず、大臣・副大臣等の閣内議員、閣外の与党議員及び職業公務員がそれぞれ政策立案において果たす役割や責任関係について、イギリスのような統一的認識が確立されていない状況である。
労働市場流動性
 イギリスでは、雇用の流動性が一般的に高く、こうした条件の下で、例えば、公務部門[これは政治任用ではない職業公務員(civil servant)一般を指すと思われる]においても、上級公務員(本省課長級以上に相当し、エージェンシーの長等を含む。)の職に欠員が生じた場合に、3割程度は公務外からの公募による採用によって確保されている。特別顧問[これが政治任用で採用される職]についても、こうした労働市場環境が背景にあることで、マスコミ、政党、研究者などからの有為な人材確保を可能にしていると言える。
(執行機能の本省からの分離)
 イギリスでは、中央政府による地方の統制はあるものの、中央と地方との間では明確な事務配分がなされ、道路・交通、環境・保健、住宅、警察・消防などの各般の住民サービスは多くが地方自治体の事務とされている。また、エージェンシー制度の導入により、国の事務のうち執行機能に関する部分の多くが本省組織から分離されており、本省部門は企画立案機能を中心に運営されている。このため、政治任用者を本省組織の中で政策分野における政治的な助言を行う役割を担うものとして位置付け、その活動を適切に規律することが容易な環境が整っていると考えられる。
(職業公務員の社会的威信と職業理念)
 イギリスでは官僚が政治家に転身するといった現象は一般的でなく、また、政治家も官僚の自律性を尊重して行政運営に当たるなど、政治と行政はその本質的役割・立場を異にした別次元のものとして、対等の協働関係としてとらえられている。このような状況の下で、職業公務員は強い社会的威信と職業理念を持った集団と位置付けられていると言える。

どれも重要な点だとおもうんだが、前に書いたこととの関連では第二の項目がもちろん一番ダイレクトに関係している。重要なのは、この報告書が政治任用に注目しているにも関わらず、一般の公務員上級職の3割が「公務外からの公募による採用によって確保されている」点を押さえていることだ。一時期民主党管直人とかがいっていて日本でも少々導入された政治任用だけが重要なのではなくて、こうした外部とひらかれた人事がされていることのほうが僕にとっては重要なことに思えるのだ。

このまとめの後におかれている「「政治任用」関係者の声」というコーナーでも、中央省庁の特別顧問秘書官(特別顧問と省の間の連絡役を担当する職業公務員)が

大臣たちは(特別顧問制が導入されている)現在も職業公務員に支えられた省組織からの情報や知恵に信頼を寄せています。この機能が麻痺してしまったら、すべてが機能しないことになるわけで、この点はきちんと維持されていく必要があります。特別顧問制はそうした基本のシステムの上に、付加価値的なサービスを付けるものだと私たちは見ています。と言いますのは、通常は大臣よりも特別顧問の方が、企業の社長や労働組合の事務局長と会って話をすることが容易ですし、同時に、相手方の立場から見ても、特別顧問と話をすることは、大臣に対する直通ルートで話をしていると感じ取ることができるわけです。この点が実は特別顧問制がうまく機能していることの理由なのかもしれません。特別顧問制はあくまで補完的なものでしかないわけで、職業公務員が大臣との対話をきちっと保持し、政策策定の際の大臣とのコミュニケーションを続けていくことが重要であり、それにより特別顧問の仕組みも維持されていくべきものと思います。

と述べている。