前駐米英国大使クリストファー・メイヤー回想録

1997年から、イラク戦争会戦直前の2003年2月まで駐米大使を務めたクリストファー・メイヤー氏の回想録の抜粋が、今週中毎日、ガーディアンとデイリー・メイルで掲載されている。ガーディアンのほうの連載一覧は以下から。
http://politics.guardian.co.uk/iraq/page/0,12956,1636156,00.html

CNNのサイトで最初の抜粋の筋が日本語で読める。
http://cnn.co.jp/world/CNN200511070018.html

「(イラク開戦に当たり)英国は米国の従属的パートナーにすぎなかったかもしれない。しかし米国が孤立を望まず、パートナーを求めていたという事実を、切り札として使うことはできたはずだ」と主張。ブレア首相はイラク戦争を支持する条件として、開戦を遅らせ、フセイン政権打倒後の計画を十分に立てるようブッシュ大統領に求めるべきだったと述べている。「英国が計画的な進め方を主張していれば、フセイン後のイラクで続く暴力を防ぐことができたかもしれない」と、メイヤー氏は強調する。しかし、ブレア首相や側近らは当時、米政権の力に圧倒された様子で、交換条件を出そうとはしなかったという。

 ただし、ガーディアンが(ベルリナーサイズに最近サイズ変更して、紙面リニューアルした際に)タイムズからひきぬいてきた論説委員サイモン・ジェンキンスは「いや、ブレアがそんなにブッシュに対して影響力をもてたとは思えない」という論を張っている。*1
http://politics.guardian.co.uk/iraq/story/0,12956,1637207,00.html
 
 僕は、ジェンキンスのほうがメイヤーよりも正しいという気がする。英国外務省エリートであるメイヤーがイギリスの外交力を過大評価しているのではないか、と思うからだ。もう少し言おう。
 
 この回想録で明らかにされているのは、首相と首相スタッフ側が、外務省(すなわちメイヤーなど)を外交の舞台から何度も外そうとしたエピソードだ。メイヤーは、このことに対して怒っている。自分たち外交の専門家を外して、アメリカに寄り添ってしまったブレアとブレアの側近たちを批判しつつ、しかし、イラク戦争そのものには賛成であるというメイヤーのとれる立場が「もっと自分たちに仕事をさせてくれればイラク戦後処理についてももっときちんとできたのに」となることは自然だ。
 
 ただし、実際にそうできたかどうかを確かめる術はない。僕には、できなかった可能性のほうが高いのではないか、と思われる。

 それはともかくとして、この回想録は非常におもしろい。お勧め。

*1:ジェンキンスは、ただ、ブレアには選択肢はあった、ともいう。アメリカについていけない、といえる選択肢だ。ただ、ブレアはそれを選ばなかった。「彼はひどい過ちをおかし、それを背に負ったただの男だ。かれはその重荷を永遠に負いつづけるだろう」とジェンキンスは結ぶ。