バンクホリデー・ウィークエンド

 8月最後のバンクホリデー・ウィークエンドが終わった。いろいろやらねばならないことが満載なれど、ほとんどやけになって、金曜日から数日旅行にいってしまう。このウィークエンドは、イギリス人にとっては夏を締めくくる最後の連休で、どこにいってもイギリスの基準ではものすごい(けれども日本人にとってはそれほどでもない)人出となるのだが、たまたま直前のキャンセルかなにかで安く泊まれるホテルがあったので、この時期に、よりにもよってなのだが、シェークスピアの生地であるストラットフォード=アポン=エイヴォンにクルマとばし一泊する。まだ行ったことがなかったのだ。
 僕らも含め外国人旅行者もイギリス人旅行者がたくさんいたけど、さすがに名高い観光地になるだけあって、チューダー朝時代の建物がいくつもかなりきれいに保存されていた。そのなかの一つはもちろんシェークスピアの生家である。夜にロイヤル・シェークスピア・カンパニーで観劇するのが正しい観光客だろうが、僕らはエイヴォン川の川辺にたつ劇場を傍目に、手漕ぎボートをかりてタイミングよく出てきた陽の光を楽しむ。
 翌日の土曜日午前中をゆっくり過ごして、午後は西を目指してクルマをとばし、中部ウェールズの海岸の町アバレストウィズ(Aberystwyth:日本語表記はこれが普通かよくわからない。耳にしたままを書く)に向かう。去年秋に二人とも博士号を終わらせてそこの大学に3年の仕事を得たベルギー人の友人カップル(まだ結婚してないけど)が住んでいるのだ。バーミンガムを迂回しシュリューズベリ(この町にもいかねば)をかすめて、ウェールズの山を越えて、西の海岸へ向かう。彼らの家について後、眺めのよい丘を歩いて下りつつ海辺の町に下り、なんとか空いているレストランを見つけて夕食。
 日曜日の朝はものすごく強い風雨だったが、天気予報を信じて車で北に向かう。かつてウェールズの首都だったこともあるというMachynlleth という町についたころには雨も止まり晴れ間がのぞきだす。昼飯を食べ、お店を回り、それから20キロほど北にあるドルゲッハウ(Dolgellau)に向かう。17世紀の古い調度がそのまま残っている喫茶店でお茶を飲んで、この小さな町のすぐ南のそびえる山Cadair Idrisの山腹をつたう細い道を走る。かなり高いところに二つ小さな湖がある。車を降りる。そばに見える小さな丘に登る。丘の間にかなたに海が見える。海の上の雲の隙間から陽が差し込む。レンブラントの絵に出てくる光のようだ。立っていられないぐらい強い冷涼な風が吹きつける。アバレストウィズに戻って友人が料理してくれた夕食に舌鼓をうちつつワインを飲み、話が弾む。この間見た映画「青春の輝き」The Best of Youthを彼らも以前見ていたらしく、この映画の話でもりあがる。その他、最近読んだ本とか小説、映画の話をする(いくつか彼らがお勧めのをメモってきた)。共通の友人、知り合いのゴシップを交換し、お互いの今後の話をする。
 月曜日はアバレストウィズの町を散策し、またお茶をする。別れを辞して北へ向かう。帰り道に(同じくウェールズの)Balaという町を通る。ここには数年前一度クリスマスの間ホームステイさせてもらったおばあさんの家がある。連絡先を記したメモをなくしてしまってコンタクトが取れなくてこまっていたのだ。突然で申し訳なかったのだが予告なしで立ち寄る。お元気で、あれから3年近いのに僕らのことをよく覚えていてくれてお茶を入れて歓待してくれた。またこの秋にでも泊まりにおいで、またスシが食べたい、といってくれる。それから家路へ。
 ウェールズは、『ロード・オブ・ザ・リングス』(『指輪物語』)に出てくるホビットの里The Shire(シャーあるいはシャイアー)みたいなところだ(友人たちとも見解が一致した)。The Shireは、トールキンが子供のころの育ち愛したバーミンガム近郊の田舎がモデルらしいけれども、そのような田舎っぽさはもはやイングランドにはなくなってしまったように思える。しかし、いまだウェールズにはそういうものがふんだんにあるのだ。ウエールズ語を僕は解さないが、彼らが英語をしゃべるときですらそのテンポはかなりゆっくりだし、人々はしばしば鍵をかけずに外出するみたいだし、すぐ親しくなっていろいろしりたがるし(他人のプライベートには首をつっこまないようにという考えが薄いらしい)、あと少し家の作りも小ぶりだったりする。日本では湖水地方ほどしられていないが、ウェールズの北部の(今回訪れたドルゲッハウも含む)スノードニア国立公園は湖水地方に劣らず美しい。スノードニアは今度バラに泊まりにいくときに見に行くのが楽しみだ。