故網野善彦氏追悼関連

1)伊藤俊一氏
http://toshiito.cside.ne.jp/kinkyo.htm#20040228

世間で紹介されている網野氏の像と、日本中世史を専門にしている者から見た氏の像とは、少しズレがあると思う。いわゆる「網野史学」と言われている内容のうち、非農業民については網野氏の独壇場だが、公界と無縁については勝俣鎮夫・笠松宏至氏、東国独立国家論については石井進氏、「もののけ姫」に出て来る柿色の衣の非人研究については細川涼一氏、「日本」の領域の相対化については村井章介氏らの研究を氏なりに消化したものだろう。一方で網野氏は、寺院組織を視野に入れた荘園研究の開拓者でもあるのだが(『中世荘園の様相』・『中世東寺と東寺領荘園』)、この面が一般に紹介されることはない。
だから、「網野さんの後継者は誰?」と聞かれた場合、「どの網野さん?」と聞き返すことになるのだが、これらの研究を総合しつつ、自らの戦争・戦後体験に基づいた「志」を持って、学界を遥かに超えて発信したという意味では、空前絶後の人だった。
<中略>
ただ、今の日本中世史学はむしろ、「網野史学」をふまえた上で、氏が対抗した「歴史のシナリオ」自体を見直す段階に入っていると思う。

非常に勉強になる。


2)3月1日の朝日新聞(朝刊か夕刊かわからない)に掲載された阿部謹也氏による追悼文が身内からファックスされてきた。やはり、網野氏との対談『中世の再発見』(ASIN:458276066X)には幻の続編があったのか。

私と網野さんとの間で歴史の解釈の問題をめぐって考えが違ってきていた。<中略>それだけでなく、歴史叙述の問題についても基本的な違いが互いに意識されていた。そのために対談は中断された。私と網野さんとの間には今でも膨大な対談の原稿が眠っている。二人ともそれを再開する気はなかったのである。

ああ、この対談の原稿、適うものならば本当に読みたいなあ。