イギリス観察

 これまで放っていたことが山のようにあるので、なんだか忙しい。それでも肩の荷が下りて、ここのところ毎週末土曜日に、住んでいるまちから1,2時間でドライブしていける範囲のいろいろな田舎町にドライブにいっている。
 行き先の田舎町の選択について記すためには、奥さんの趣味に触れねばならない。
 彼女は編物のひとなのだが、実はイギリスの町ではきれいな毛糸を手に入れるのが意外と難しいとこぼしていた。町のなかに毛糸屋はなくはないのだが、あまりきれいでないパステル色とかばかりでふつうの手芸好きな日本人ならとても買えたものでないものばかりなのだ。以前、たまたま知り合いになった編み物好きのおばさんからあるきれいな毛糸をつくっている毛糸メーカーがあることを教えられた。たしかに、その毛糸メーカーの毛糸は、色もきれいで、少しだけ他よりもたかめで、上品で、なかなか趣味もよい。使えるレベルだ。そのメーカーが出している、そのメーカーの毛糸をつかった服とその編み方のパターンを載せたなかなかきれいな雑誌を購読するようになった。(その雑誌はメールオーダーでしか手に入らず、いくら町の本屋にいってもその存在すら知ることはできない。) その雑誌の最後に、そのメーカーの毛糸を扱っている限られた毛糸屋あるいはクラフトショップのリストが載っている。そのリストによれば、このメーカーの毛糸を扱う店は、たとえば僕らが住むような中都市の街中には位置しておらず、もっと小さな田舎町にしかない。したがって、このメーカーの毛糸を、メールオーダーではなく実際に見て買おうとすると、1,2時間ドライブしてそういうお店にいかざるを得ないということになる。インターネット上で手に入る地図*1で場所をチェックして出発する。そういうわけで、訪れる田舎町は、このように、毛糸屋によって決定されている。
 彼女が毛糸を見ている間、僕はそういう店のなかとかその近くにあるカフェとかでお茶をしながら(そういう町には、なかなかいいカフェがあったりするのだ)、新聞や本を読み、彼女の買い物が済んでから、その町・村を歩き回ったり、他の小さいが趣味の良いお店をみてまわったりして帰ってくるわけである。そうして、ひとつふたつと毎回違った店と町を訪れていくうちに、行く町、行く村、はずれがないことにだんだん気づいてきたので、なんか習慣になってきた。

 要するにどういうことかというと、こういうことである。
1)そのメーカーのようなきれいな色の毛糸を買う人たちは、ミドルクラスのイギリス人である。 
2)そういう人たちは、もちろん都市のなかに住み続けることをせず、趣味のいい小さな田舎町に住みたがる。
3)そのようなマーケットによってこの毛糸メーカーは支えられているので、そのメーカーの毛糸はそういう人が住む田舎町にあるクラフトショップで取り扱われる。
 さらにいえば、本当のミドルクラスは、街中ではしゃれた毛糸などを都市のど真ん中にいって買おうとなどはしないというわけなのだ。イギリスという国では。(もちろん、ロンドンはまったく別であり、イギリスの他の部分といっしょにされては困る。) 道理で、町のなかによい毛糸屋がないはずである。日本ではすこし考えられないことだ。

 そこで感じることは、例えば、世田谷住民というのは(あっちサイドの東京に住んだことはないが)、イギリスのミドルクラスにけっこう対応するかもと思う。勝手な偏見で言えば、世田谷住民は日本人の中流よりも少し上だろうが、その「ちょっと上」感と彼らの文化的趣味が、イギリスのミドルクラスに対応する感じなのだよな(イギリスのミドルクラスと日本人の中流(意識)を対応するものとしては大間違いである)。

*1:www.streetmap.co.ukなど。